【働き方と健康格差①】健康格差が生じる要因

皆さんこんにちは、更紗(さらさ)です。

皆さんは、ご自身が「健康的な働き方をしている」と思いますか?

一般的な臨床医は、下記のような働き方をしています。皆さんの中にも、当てはまる方がいるのではないでしょうか。

慢性的な長時間労働、当直、当直明けの通常勤務、休日出勤、24時間365日拘束される主治医制、命に関わる責任の重い仕事…

…その通りです。私も産業医学を学んでから気付いたのですが、「臨床医の働き方は異常」です。

この働き方で健康なわけないよね…。

私も、臨床医時代は「過労死するか過労自殺するか」という程の過酷な労働環境の中にいました。強い倦怠感・動悸・不眠・生理不順・無月経・片頭痛・感染症にかかりやすくなる等の体調不良を常に自覚し、苦しみながら働いていました。

臨床医から産業医に転職したことで、現在も医師として働き続けていられますが、あのまま臨床医として働き続けていたら、確実に医師を辞めるか死んでいたと思います。

更紗
一体どうすれば、臨床医が健康的に働けるようになるのかな…。

↓そう考えていた時に出会った書籍が、『健康格差社会への処方箋』(著:近藤克則、出版:医学書院)です。

健康格差についての膨大な研究データを多様な切り口でコンパクトにまとめてあり、軽妙な語り口でとても読みやすい!
更紗
こんな素晴らしい本が書ける近藤先生、ただただ尊敬します…。
今回は、本書を参考に、「働き方に関係する健康格差」をまとめました。どういう働き方が健康格差を生み出すのか、そしてどのように対策するべきなのか。
この記事を読むことで、過酷な働き方に悩んでいる皆さん自身の働き方を見直すことに繋がると思います。
是非ご一読ください!
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健康格差とは?

健康格差とは、「地域や社会経済状況の違いによる集団間の健康状態の差」を言います。

例えば、皆さんも「健康寿命には都道府県格差がある」ということを聞いたことがあると思います。

2019年時点で、男性の健康寿命第1位は大分県(73.72歳)、第47位は岩手県(71.39歳)。両者には2.33歳の差があります。

ちなみに、女性の健康寿命第1位は三重県(77.58歳)、第47位は京都府(73.68歳)。両者には3.9歳の差があります。

https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000872952.pdf

健康って、遺伝とか自己責任で片付けられることもあるけど、それだけじゃなさそうだね。
更紗
このように明確な地域間格差があるということは、社会環境の影響も大きいと言えるでしょう。
厚生労働省の「健康日本21(第3次)」(2024~2035年)の具体的な目標にも、健康格差の縮小が明記されています。健康格差は望ましくないものであるということを、国も認識しているのです。
健康寿命の延伸と健康格差の縮小
全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現のため、個人の行動と健康状態の改善に加え、個人を取り巻く社会環境の整備やその質の向上を通じて、健康寿命の延伸及び健康格差(地域や社会経済状況の違いによる集団間の健康状態の差をいう。以下同じ。)の縮小を実現する。(中略)社会環境の質の向上自体も健康寿命の延伸・健康格差の縮小のための重要な要素であることに留意が必要である。
「健康格差の縮小のためには、社会環境の整備・質の向上が必要である」ということが、繰り返し述べられていますね。
一体、どんな社会環境が健康格差を生み出しているというのでしょうか?
本書では、下記の5つを「仕事関連の健康格差の要因」として挙げています。
  1. 長時間労働
  2. 社会階層
  3. 職業性ストレス
  4. 不安定雇用
  5. 成果主義
成果主義って、良いイメージがあったけど…健康には良くないんだね。
ひとつひとつ、詳しく見ていきましょう。

長時間労働と過労死

労働基準法第32条には「1週間に40時間(1日8時間)を超えて労働させてはならない」と定められています。これを超えても合法なのは、労働協約と就業規則(36協定)に明記され、労働者の同意がある場合のみです。

従来は、36協定に明記すれば働かせ放題が可能だったのですが、2019年4月から導入された働き方改革により、時間外労働時間に上限が設けられるようになりました

医師に対しては5年間の猶予期間が設けられ、2024年4月からスタートです。

とはいえ、医師の時間外労働時間の上限は最低でも年960時間(過労死ライン)、最高で年1,860時間(過労死ラインの倍)が認められています。
※ちなみに、他業種では原則年360時間まで、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間まで。

今現在、圧倒的な長時間労働を強いられている上に、働き方改革がスタートしても相変わらず強いられる見込みの臨床医…救いの道はあるのでしょうか。

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臨床医に限らず、日本人が働き過ぎということは皆さんご存知ですよね。日本人の労働時間は、1997年時点でドイツやフランスに比べ、年間300~500時間も長かったとのこと。

労働基準法施行規則の「業務に起因することの明らかな疾病」の請求・決定(認定)件数も増えています。決定件数を2001年度と2015年度とで比べると、脳・心疾患で143件から671件へ(うち死亡は58件から246件)、精神障害等で70件から1306件へ(うち自殺は31件から205件)と、約7~21倍に増えています。

過重な時間外労働によってうつ病となり、それが原因で自殺する過労自殺もあります。本書では、「心身の健康に悪影響を及ぼす水準の長時間労働が蔓延し、それらが最悪の場合に自殺を含む過労死を招いていることに、疑いの余地はない。」と結論付けています。

2014年、カナダの情報サイト「The Richiest」が米国の職業別自殺率トップ10を発表しましたが、堂々の1位は医師で、自殺率は平均の1.87倍だったとのことです。

海外の調査結果とはいえ、皆さん「医師は最も自殺率が高い職業である」ということを自覚しているでしょうか。大半の臨床医は、現在も異常な働き方をしています。そしてその働き方は、自らの命を犠牲にしてしまうかもしれないのです。

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社会階層と健康格差

社会階層の1つが職業による階層であり、職業階層が低いほど健康状態は悪いと言われています。経済的貧困とは無関係であるはずの公務員ですら、職業階層によって死亡率にまで差があることが報告されています。

イギリスのホワイトホール(Whitehall)研究は、1万8133人の男性公務員(40~69歳)を25年にもわたって追跡したものです。職業階層(管理職、専門職、事務職、その他の4段階)が高い群に比べ、低い群の死亡率は高く、現役時代の3.12倍のみならず、引退後にも1.86倍高かったということです。

医師は職業階層では高い群に該当するけど健康状態が悪いよね…。
更紗
労働条件は底辺ですからね。主治医制で24時間365日拘束されている医師よりも、看護師さんの方が時給高いです。

職業性ストレス

健康格差の原因として、仕事・職場に起因する職業性ストレスが注目を浴びています。

仕事上要求される業務量やスピード、責任、心理的負担などの「要求度」が高いほどストレスを感じるのは明白ですね。

それだけではなく、いつまでに何を、どの水準でやるかなどを自分の裁量で決められる「コントロール度」も健康に影響します。コントロール度が高ければ、締め切りを少し延ばしたり、要求水準を少し下げたりして、ストレス状態を緩和できるからです。

この2つの組み合わせで職業性ストレスを捉えるのが「要求ーコントロール(demand-control)モデル」です。

職業階層別に見ると、一般的に職業階層が上の者ほど、要求度も高いがコントロール度も高いですよね。もし要求度が高くコントロール度が低いと、文字通り「心臓に悪い」。コントロール度が高い群に比べ低い群で、冠動脈疾患は1.93倍も多いそうです。

臨床医は、要求度が高く(責任、心理的負担が重い)、コントロール度は低い(患者さんが最優先)ですもんね。「心臓に悪い」はずです。

ストレスを緩和するもの

上司や同僚から得られる社会的サポートが、ストレスを緩和することが分かっています。これも取り込むのが「要求-コントロール-サポートモデル」です。社会的サポートは、職業階層が高い者の方が豊かであると報告されています。

社会的スキルも重要です。これは社会的サポートや対人関係を形成するスキルであり、対人場面で生じるストレスを低減させます。トレーニング可能であると言う意味でも注目に値します。

優しい上司だったら仕事が辛くてもしばらく耐えらえるけど、パワハラ上司だったら全く長持ちしないということだね。
更紗
社会的スキル…「社交性」とも言えますね。私の苦手な部分なのですが(汗)、トレーニング可能なら頑張ってみようと思います。

メタボリック・シンドロームの原因にも職業性ストレス

メタボリック・シンドロームは、内臓肥満を基盤に、高血糖、脂質異常症(高中性脂肪血症、高LDL-コレステロール血症など)、高血圧が複合することによって心筋梗塞・脳卒中などの発症リスクが高い状態を指します。このメタボリック・シンドロームも、職業階層が最高位の者に比べ最低位の者では実に2.33倍も高かったとのこと

そして、職業性ストレスと社会的サポートも関与しています。

Chandolaらは1985~1999年の間に4回、仕事のコントロール度が低く社会的サポートが乏しい「ストレス状態あり」の有無を調べました。ストレス状態が1回もなかった者に比べ、1回、2回、3回以上経験した者では、それぞれ1.12倍、1.52倍、2.39倍もメタボリック・シンドロームが多くみられたそうです(年齢、職業階層、生活習慣上のリスク調整済み)。

メタボリック・シンドロームの職業階層間におけるオッズ比は、職業性ストレスを考慮すると11%減少し、生活習慣上のリスクも同時に考慮すると、統計学的に有意ではなくなったとのこと。つまり、職業階層によるメタボリック・シンドロームの割合の差は、生活習慣とともに職業性ストレスの差で説明出来ることを意味します。言い換えれば、生活習慣指導とともに、職業性ストレスの軽減を図ることの重要性を示唆しています。

更紗
生活習慣指導も職業性ストレスの軽減も図るのは、産業医だからこそ出来ることですね!

不安定雇用の悪影響

ここまで紹介してきたのは、身分が比較的保障された労働者のデータでした。最近は、もっと身分保障の危うい不安定雇用やワーキングプア(働いているのに貧困な人々)が増えています。

増える不安定雇用

日本でも、フリーターをはじめとする不安定雇用が増えています。総務省の「労働力調査」によれば、15~34歳のフリーター※は、1982年の約50万人から、2015年には200万人超まで増えています。
※「労働力調査」では、①雇用者のうち「パート・アルバイト」の者、②完全失業者のうち探している仕事の形態が「パート・アルバイト」の者、③非雇用者のうち希望している仕事の形態が「パート・アルバイト」で家事・通学・就業内定していない者を、フリーターとして集計している。

パート・アルバイトに更に派遣社員や契約社員などを加えると、15~34歳の非正規雇用者数は2015年は約521万人でした。(全年齢層でみると1980万人です。)

生涯賃金を雇用形態別にみると、正規雇用の約2.4億円に比べ、パートタイム労働者では約0.5億円であり、その差は実に2億円にも上ります。しかも「非正規雇用からの離脱は困難化している」と2006年版の年次経済財政白書も指摘しており、非正規雇用者の辛い現状が浮き彫りになっています。

医師の場合は、フリーランスになった方が報酬が高いこともあるから、例外的だね。

努力ー報酬不均衡モデル

仕事に費やす努力と報酬のバランスがとれない不均衡状態による職業性ストレスを捉えようとするのが、努力ー報酬不均衡(effort-reward imbalance)モデルです。ここでいう報酬には、金銭的な給与だけでなく、仕事の重要度や興味、発揮できる能力、得られる賞賛、雇用の安定性や見通しなどを含みます。

このモデルを使って職業性ストレスを測定すると、正規労働者に比して非正規労働者において不均衡が多くみられ、冠動脈疾患、心身機能の不健康を予測出来ることが分かっています

「成果主義」の影

もう1つ重要なのが、成果主義の導入です。これは労働者の目標達成度(成果)を評価して、社員のやる気を引き出すために「給与を短期の成果に連動させるシステム」です。

多くの社員のモチベーションが低下する

成果主義を導入する企業はどんどん増え、大企業では8割に達したそうです。

経済産業省が設置した研究会は、「成果主義」や「非正規社員の拡大」などの1990年代以降の企業の人事施策について、人件費の削減には効果があったが、一方でパフォーマンスの低下を招いていると指摘しています。

押し付けられた評価システムには納得感・公平感が欠如し、従業員の動機づけへの効果は限定的で、むしろ多くの(非正規社員を含む)従業員のモチベーションは低下し、組織・チーム力も低下したとのことです。

成果主義と職業性ストレス

成果主義では、個人の成果が評価されるために、「自主的に」業務量は増えます。同僚の間に競争が持ち込まれ、同僚や後輩をサポートしても評価されないのであれば、お互いの支え合いは減り、職場がバラバラとなります。

「業務上の要求度が増える」「社会的サポートが得られにくくなる」という面、そして評価・報酬の明らかな格差が、仕事に傾けた努力に見合う納得のいくものでなければ、「努力ー報酬不均衡」の面からも、成果主義や任期制の導入は職業性ストレスを高めた可能性が高いということです。

医師はどんなに努力しても、同じ職場では給料上がらないですよね…。給料を上げる方法としては「スキルアップして転職」が定石です。
更紗

「こんなに頑張っているのに報われない」と感じている方は、転職も検討しましょう!

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なぜ健康格差は生まれるのか…媒介メカニズムと修飾メカニズム

喫煙や肥満、高血圧など、よく知られている生活習慣病の危険因子は、階層が低い層に多いです。しかし、それでは職業階層による健康格差を1/4程度しか説明できませんでした。

その他に、低い階層ほど職業性ストレスは多く、ストレスを緩和する社会的サポートは乏しいことなども関与しています。このようなストレス(緩和)要因の分布が職業階層間で異なっているために健康格差が起きると説明するのが、ストレスが媒介して健康格差が起きるという「媒介メカニズム」です。

もう1つが「修飾メカニズム」です。職業性ストレスの影響は、すべての階層に同じように現れるのではなく、低い階層により強くみられる、例えば低所得層やブルーカラー労働者(作業員など肉体労働が主な労働者)、低い職業階層においてのみ観察されたという報告があります。つまり、低い社会階層との組み合わせ(相乗作用、交互作用)によって修飾されることで、健康に悪影響を及ぼすというメカニズムです。

3つのレベルの対策

働いている人は、職場に長い時間・年月にわたって身を置き、仕事に精神的エネルギーを注ぎ、職業人として評価されています。そこでの条件や環境が健康にも大きく影響していること、職業階層による健康格差の実態と、その原因を紹介してきました。

これらを緩和する対策は、①個人、②職場、③国の3つのレベルに分けて考えられます。

まず、個人レベルでは、職業能力・ストレス対処(コーピング)スキル・社会スキルの開発や、認知行動療法等です。人は、資源を超える要求をされたときにストレス状態となりますが、これらの内的資源が豊かになれば、社会的サポートなどの外的資源も豊かになり、ストレスの低減・緩和につながると期待されます。

しかし、個人レベルの対策だけでは限界があります。例えば、企業が上位1割の人までをA評価とする成果主義や、3割は非正規雇用とする方針を変えなければ、効果は乏しいです。いくら個人が内的資源の開発に努力しても、努力した全員がA評価、全員が正規雇用はあり得ないからです。

職場レベルでは、コントロール度の向上や社会的サポート、金銭的ではないものを含む報酬を増やすなど、上司を含む職場ぐるみでの取り組みが必要です。また、国レベルの政策・対策も不可欠です。長時間労働を禁じ、非正規雇用者の条件を良くすることは、国による規制がなければ難しいからです。

まさに「国が日本人の働き方を変える」働き方改革の必要性を訴えているね。
更紗
一方、個人の努力の必要性も書かれていますね。自身が社会人として・医師として成長し、ストレスへの対処方法を身に付けることが、自身の健康を守ることになります。

まとめ 皆さんの働き方を健康的なものに変えるには

今回の記事では、下記の5つを「仕事関連の健康格差の要因」として解説してきました。
  1. 長時間労働
  2. 社会階層
  3. 職業性ストレス
  4. 不安定雇用
  5. 成果主義

皆さんにも当てはまる所がありましたでしょうか?(会社員と医師とでは事情が異なることも多々ありますが。)

医師の働き方を健康的なものに変えるには、本書にもありました通り、①個人、②職場、③国の3つのレベルの対策が必要です。

②職場および③国が、2024年4月から医師の働き方改革を実行してくれるはずなのですが…皆さんの職場は、本当に皆さんの働き方を改善するために動いてくれていますか?

もし皆さんが今現在の働き方に悩んでいて、改善の見込みがないのでしたら、是非①個人で出来る対策、「転職」もご検討ください。

私は転職をしたおかげで、一命を取り留めることが出来ました。

穏やかで豊かな暮らしを手に入れ、感謝の気持ちいっぱいで今現在も働いています。

皆さんも、「自分の健康が犠牲になる働き方」ではなく、「自分の健康を保持・増進出来る働き方」を、自らの手でつかみ取ってください。

健康はお金では買えません。生涯大切にしていただきたいと思います。

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