専属産業医のお仕事【コロナ禍編】

  • 2021年10月16日
  • 2022年5月11日
  • 体験談

皆さんこんにちは、更紗(さらさ)です。

皆さんの中には、コロナ禍で労働環境が悪化してしまった方もいるのではないでしょうか。毎日、本当にお疲れ様です。

臨床医と比べたら大したことないとは思いますが、産業医もそれなりに大変です(苦笑)。

今回は、臨床医であればあまり知らないであろう、「コロナ禍での専属産業医の仕事」について紹介していきます。

産業医の業務内容は、事業所によって千差万別なので、今回はあくまで私の職場の場合です。

臨床医の皆さんが、あまり馴染みの無い専属産業医の仕事に興味を持てるようにと書きました。

是非ご一読ください。

注)こちらで言う「コロナ」とは、現在流行中の「新型コロナウイルス」を差しています。
注)会社のマニュアルは社外秘なので、内容の詳細は伏せております。ご了承ください。

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衛生部門の環境

まずは私の職場環境をご説明します。

私は某企業の一拠点の専属産業医として、衛生部門に勤めています。

衛生部門は人事課の所属です。主に専属産業医(私)・産業看護師・事務員の3名で運用していますが、人事課長・労務担当者も含むと5名になります。

診療もしていますが、かなり限定的で、うちでは体調不良者(コロナ以外)の初期対応のみ行っています。

正直、「産業医の仕事ではない」臨床業務を行うことは望ましくないのですが、非常に需要が大きいので、自分で責任が取れる範囲内で引き受けています。

基本的には、純粋な産業医業務(産業医巡視、産業医面談、就業判定、ミーティング、資料作成等々)で毎日忙しくしています。

コロナ禍の産業医のお仕事①基本的な感染症対策

コロナ禍前から行っていたものは、以下のようになります。

  • アルコール消毒液の購入・拠点内への分配
  • 不織布マスクの購入・備蓄
  • 情報提供(掲示物・モニター表示)
  • インフルエンザワクチンの購入・接種

また、コロナ禍で、各部署の感染症対策を指導することが増えました。

あまり厳しくすると社員さんの業務・休憩に差し支えるので、シンプルで継続可能な内容に絞っています。例えば以下のようなものです。

  • 3密を避けるため、事務所・休憩所内の人員制限をする。
  • 机は対面ではなく一方向を向くように。対面になる場合はアクリル板を設置。
  • こまめな換気を行う。出来るところはCO2濃度を参考にする。
  • 人とは2m以上の距離を取る。
  • 原則マスクを着用。周囲に人がいなければ外してもよい。
  • 事務所・休憩所入口にアルコール消毒液を設置。こまめに手指消毒を行う。
  • 流しには固形ではなくポンプタイプの石鹸を置く。こまめに手を洗う。
  • 常に4Sを心掛ける。
  • 自身の健康管理・プライベートの過ごし方に留意する。

殆どの社員さんはこちらが言わずとも実践してくれますが、喫煙所に行くと何故か「マスクを外して至近距離で何十分も会話」というハイリスクな行為をしてしまう人がいます(喫煙所にもちゃんとルールを掲示しているのですが)。

そのため、その中から一人体調不良者が出ると、当人はもちろん喫煙所で一緒に過ごした人もコロナ疑いで休ませることになり、業務が立ち行かなくなります。ただでさえ人手不足なので困ります(笑)。

こういった例が頻発したことがあったのですが、人事課長が喫煙所を一週間閉鎖しました。感染症対策としてはずっと閉鎖しておくのが望ましいのですが、喫煙率が高い拠点でもあり、理解を得るのがなかなか難しいです。

一週間でも、社員さんの気持ちを引き締める上では十分な効果がありました。幸い、拠点内でのクラスターの発生無く過ごせています。

コロナ禍の産業医のお仕事②マニュアル整備

会社全体のマニュアルは、主に本社の専属産業医の先生が整備しました。とはいえ拠点により業務内容・事情が全然違うこともあり、 各拠点の産業医も意見を出し、内容を深めていきました。

各拠点で独自のマニュアルを設けてもいます。 うちは人事課長の考えで、他の拠点よりちょっと厳しめに作ってあります。

更に、行政からの依頼で、外部のマニュアルの作成に協力しました。

コロナ禍の産業医のお仕事③コロナ疑いの有症状者発生時の対応

非常にセンシティブな個人情報なので、うちの拠点では原則人事課長と当人の上長のみ把握・対応することになっています。

マニュアルがしっかり整備されているので、産業医が介入せずとも問題ありません。 しかし、対応を相談されることはあります。

実際にあったのは「新人研修で、屋外で運動した直後に体温測定したら、新人がみんな体温が高くて・・・他に特に症状はないが、これはコロナの集団感染か?」といった内容でした。

新人全員を病院送りにする勢いだったので、なだめるように、以下のような回答をしました。

  • 体温測定のタイミングとして運動直後は不適切である。
  • もう夕方なので、夜のレクリエーションは行わず各自部屋で休むように。
  • 安静時に再度体温測定をすること。これで異常が無ければ経過を観察するように。
  • 会社のマニュアルの「無症状期間が〇時間以上続いていれば復帰可」に従うように。

もちろん、本当にコロナの集団感染なのかということは検査をしなければ分かりませんが(偽陽性・偽陰性もありますが)、私としてはその可能性は低いと思い、このような対応を取りました。

結果的に、特に問題なくこの件は収束しました。

マニュアルが整備されていても、有事の際には動揺してしまってもおかしくありません。

こういう時、産業医がアドバイスをすることで社員さんを安心させることが出来ますし、拠点内で完結することで医療資源の無駄遣いを防止することが出来ます。

一方、私の知人の専属産業医の先生は、職場でのコロナ疑い者の対応・クラスター発生時の対応・職域接種の対応等を一手に任されていると言っていました。大変な負担を強いられていることが伺えます・・・。

コロナ禍の産業医のお仕事④PCR検査の検体採取

うちの拠点では、「県外から社員が入ってくる場合(県外の他拠点の社員が支援に来る、自拠点の社員が県外出張から帰省する等)」にPCR検査を行うことになっています。当人は結果が出るまでホテルで隔離されます。

もちろん無症状の場合です。有症状時は外部医療機関を受診してもらいます。

このことについては批判的なご意見もあるかもしれません(医療資源の無駄遣いだとか、検査結果を鵜呑みに出来ないとか)。ですが私は、医学的な正しさよりも会社の需要(安心を得たい)を優先しなければならないこともあると思い、引き受けています。

あまりにも不適切な事例でバンバン実施しようとしていた時は、流石に止めます(笑)。

コロナ禍の産業医のお仕事⑤職域接種

うちでもやりました、職域接種!

私はやりたくなかったんですけど(本音)。

実施に踏み切った理由は、「各々自治体で打つと、社員がどれくらい副反応で休むか把握出来ないが、職域接種なら調整出来る」からです。

運営は衛生部門に丸投げされ、協力者も少なく、全て自前でやったので超大変でした(お金に余裕がある本社は、全て外注していました。羨ましい!!!)。

こちらとしては一気に打ち終わってしまいたいところなのですが、現場の「社員が副反応で一気に休んだら困る」という事情を優先して、連日100人程度、ちまちま打つことになりました。約1ヶ月半、週6日勤務で頑張りました(本当は週4日勤務の契約なんですが)。

通常業務をこなしながら、実施体制の整備・自治体の接種会場の見学・物品の購入・バイトの看護師募集・予約管理システムの構築・希望者の日時割り振り・ワクチン管理・接種・事務処理(接種券管理・V-SYS登録)等々を行ったので、この時期の衛生部門は業務量が約3倍(体感)に跳ね上がり、全員疲弊していました。

通常業務がありながら協力してくれた皆さんには、大変感謝しています。

また、被接種者の社員さんたちも、副反応で休んだ人の穴を埋める等で大変な中、時間を調整して接種に来てくれて、感謝しています。「衛生部門のみんな頑張っているから!」とブラックサンダー箱買いしてくれた社員さんもいました(嬉泣)。

皆さんに喜んでいただけたのなら何より・・・でも二度とやりたくありませんね。

まとめ

いかがでしたでしょうか。少しでも専属産業医に興味を持っていただけたら嬉しいです。

産業医は「医学的な正しさ」と「会社の需要」のバランスを取って活動しています。

そのため、私が紹介した業務の中で、臨床医の皆さんが「医学的に正しくない!」と思うような点もあったかと思いますが、そこは立場が違うということで、参考程度に見ていただければ幸いです。

コロナ禍はまだまだ続きそうですね。収束を願って奮闘しているのは、臨床医も産業医も一緒です。

一緒に頑張っていきましょう!