【医師の偏在②】「診療科の偏在」現状・対策〜「 AIの導入」は明るい未来をもたらすのか!?

  • 2024年11月5日
  • 2024年11月5日
  • 勉強

皆さんこんにちは、更紗(さらさ)です。

前回の記事【医師の偏在①】では、医師の偏在問題のうち「地域の偏在」を取り上げました。

<医師の偏在>

  • 地域の偏在
  • 診療科の偏在
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とくれば当然、今回の記事【医師の偏在②】のテーマは「診療科の偏在」です!

2024年3月19日、厚生労働省は「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計」の結果を公表しました。

この調査結果から、医師数について下記のようなデータを得ることができます。

  • 施設・業務の種別にみた医師数
  • 医療施設に従事する医師数
    1) 性・年齢階級別にみた医師数
    2) 施設の種別にみた医師数
    3) 診療科別にみた医師数
    4) 取得している広告可能な医師の専門性に関する資格名、麻酔科の標榜資格及び医師少数区域経験認定医師(複数回答)別にみた医師数
    5) 都道府県(従業地)別にみた人口 10 万対医師数

これによると、令和4年 12 月 31 日現在における全国の届出「医師数」は 343,275 人で、前回調査(令和2年)と比べると3,652 人(1.1%)増加しています。

医師の総数が増えても、偏在があることで、特定の地域・診療科に必要な医師数を確保することができないんだったよね。
更紗
その通りです。特に「診療科の偏在」は、後継者不足という点でも重大な問題をはらんでいます。
後継者がいないということは、いずれその診療科が消滅する可能性があるということ。
「若手医師が増えない→今いるわずかな医師も高齢になって引退→ますます医師不足が深刻化し診療科の維持が困難」という流れは、容易に想像できます。

また、若手医師を育てるには上級医の存在が必要不可欠ですが、特定の診療科ではもはや上級医すら不足している状況にあります。

若手医師が一人前の医師になるには長い年月がかかります。

今すぐに強力な「診療科の偏在」対策を取らないと、取り返しがつかないことになると、私は危惧します。

今回の記事を読めば、「まさに医師不足の診療科で悩んでいる」という方も、その現状・最新の対策を把握することができます。
また、AIを活用した「未来の医師の働き方」についても提案しています。
果たして、AIは医師の「診療科の偏在」解消に繋がるのか…是非ご一読ください!
↓ 参考にさせていただいた厚生労働省の資料 ↓

【医師の偏在】診療科の偏在〜グラフでみる診療科別医師数の変化

ここで、皆さんにご覧いただきたいグラフがあります。
NHK『クローズアップ現代』の「診療科の偏在」を表すグラフをお借りしました。
ここでは、主たる診療科別医師数の経年変化(2002年から2022年まで)を見ることができます。
NHK クローズアップ現代 全記録

【NHK】手術まで数か月待ち。休診続きで医療が受けられない。命に関わる医療が危機に直面しています。医師数は増加傾向にある…

ここから分かることは、2002年と比べて、美容外科の医師数は4.3倍、救急科は2.3倍、麻酔科は1.7倍、精神科は1.43倍…と増加傾向なのに対し、

消化器・一般外科は0.79倍とむしろ減少傾向にあるということです。

実はここ20年ほどの間は、グラフに表記されていない他の診療科も全て、医師数増加傾向なんです。(医師総数が増えていますからね)

それなのに、かつての華形だった外科が一人負け…というこの状況。

一体何故なんでしょうか?

今までだったら外科系を選択していた医師が、最初から・もしくは途中から美容外科に流れていってしまったのかな。美容外科なら日帰り手術・命に関わらない手術が多いし、報酬も高い。
更紗
医師も自分のQOLを考えて診療科を選択しているんですね。あとは内視鏡技術の進歩により、「消化器外科より消化器内科!」といったムーブメントがあったのも事実です。内視鏡検査は医師バイトとしても人気がありますからね。
救急科や麻酔科は病棟を持たないことが多く、非常勤・スポットバイトをしやすいという利点があるよね。フリーランス医の割合が大きいことが予想できるね。
更紗
精神科は手技が少ないという点で人気ですよね。でも、私が産業医をしていてもオンライン医療相談バイトをしていても、大半がメンタルヘルス不調の相談なんです。需要が高まっているとのことで、精神科が増えるのは必然だと思います。
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【医師の偏在】診療科の偏在〜なぜ小児科と産婦人科は大変なのか?

「地域の偏在」を取り上げた前回の記事で、医師の偏在を客観的に示す「医師偏在指標」をご紹介しました。
実はそれとは別に、「小児科医師偏在指標」と「分娩取扱医師偏在指標」といった小児科・産科のみ抽出した医師偏在指標も存在しています。
これらは「地域の偏在」と「診療科の偏在」を見るのに役立ちます。
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どうして小児科と産婦人科は特別扱いなの?さっきの診療科別医師数では、どっちも増加傾向だったじゃん。
そう、医師不足の筆頭に挙げられる小児科・産婦人科医師数は、2002年と比べてそれぞれ1.23倍、1.12倍とわずかではありますが増加傾向にあります。
また、少子化が深刻な日本において、「小児科・産科は今後どんどん患者数が少なくなるんだから、もう十分でしょ?」と思われてしまうことがあるのも仕方がないのかもしれません。
それならばなぜ、長年小児科・産婦人科の医師不足が叫ばれているのか?
ここから詳しく考えていきます。

【小児科・産婦人科の医師不足】女性医師の割合が大きい

実は小児科・産婦人科は、女性医師の割合が大きい診療科です。
令和2年度時点の全診療科の女性医師割合は22%であるのに対し、小児科は35%、産婦人科は39%にもなります。
産婦人科は患者さんが女性だから、女性医師を希望することも多いんじゃないかな。女性医師の需要が高くて人数が多いんだから、別に良いんじゃないの?
小児科・産婦人科が積極的に「女性医師でも勤務継続しやすい労働条件」を整えている場合もありますが、実際はそこまでの余裕がない医療機関の方が圧倒的に多いのです。
そのため、小児科・産婦人科の女性医師が、自身の妊娠・出産・産後・育児等で離職せざるを得ない…もしくはフルタイム勤務できない事情があるはずです。
なので診療科医師数が充足していたとしても、現場の稼働状況は厳しいと推測します。
これは小児科・産婦人科に限らず、全ての女性医師が抱える問題でもあります。
更紗
実際、女性医師の就業率は医籍登録後12年経過時には76%にまで落ち込むそうです。私は現在医師になって13年目なので、家庭と仕事の両立が難しいことがとてもよく分かります…。

【小児科・産婦人科の医師不足】周産期医療の分業化・ハイリスク化

産婦人科と一言で言っても、主に4つの分野に分かれています。

<産婦人科の4分野>

  1. 周産期医学(産科)
  2. 婦人科腫瘍学
  3. 生殖医学
  4. 女性医学

4分野全てを診察する産婦人科医ももちろんいますが、昨今は分業化が進んでおり、労働条件の良い生殖医学や女性医学を専門とする産婦人科医が増えています。

更紗
このことが、産婦人科医の総数は増えても、周産期医学を専門とする…つまり産科が減少している原因の一つです。

また不妊治療の普及も相まって高齢出産の増加・妊娠時の偶発合併症の増加など、周産期医療のハイリスク化を招いており、

これらはそのまま、新生児医療に携わる小児科医へのリスクにもなり得るのです。

医療訴訟の3割以上を産婦人科関連が占めているらしいよ。誰だって、そんなハイリスクな仕事したくないよね…。

【小児科・産婦人科の医師不足】内科医が小児を診察することについて

私も母親になって実感したことではありますが、妊娠・出産・産後・子育て期間中は、本人もご家族も非常に神経質になります。
なので小児科でも産科でも、「症状軽いけど心配だから…」と受診する方が多く、丁寧な診察を要求されます。
その結果外来が混雑してしまうという事情…とてもよく理解できますね。
ここで一つ、私の体験談をご紹介させていただきます。
更紗
私、普通に内科の専門外来にバイトに行ったら、何故か小児科の輪番制に当たっていて、外来がパンクするくらい親子連れが殺到しててビックリしたんですよね(汗)。
地方では「小児科医がいないなら、内科の先生についでに診てもらえばいいじゃない 」という危険な手段は結構当たり前に行われています。
私が内科医として働いていた時も、度々小児を診る機会がありました。
ですが、そのバイト先はそもそも小児専門外来がないので、最寄りの薬局が小児用の薬剤(シロップとかドライシロップとか)を置いていない。
「錠剤が飲めない」というお子さんが多かったので、薬剤師さんにはいちいち錠剤を粉砕してもらっていましたね。
お手数をおかけしました…ありがとうございました。
内科医が小児を診なければならない。もちろんそこには致し方ない事情があります。
でもやっぱり私は、こういう綱渡り診療が患者さんとご家族のためになっているとは思えませんでした。
なので私は、小児の診察を依頼された時は「私が小児科専門ではないということは、必ず患者さんとご家族に説明してください。それでもいいというのであれば診せていただきます」と看護師さんにお願いしていました。
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【医師の偏在】診療科の偏在〜現在の対策「シーリング」とは?

「診療科の偏在」対策として既にスタートしているのが、シーリング制度です。

シーリング制度は、新専門医制度において地域のみならず専攻医採用数に上限を設けるというもの。

つまり、今後新専門医制度を利用して専門医資格の取得を目指す人は、自分が働きたい地域・診療科で研修を受けられるとは限らないのです。

今の初期臨床研修制度でも、マッチングで「働きたい病院で働けない」ことはあるもんね。「働きたい地域で働けない」のも、専攻医の研修期間くらいは我慢できるんじゃないかな。
更紗
でも、「働きたい診療科で研修を受けられない」のは辛いですよね…自分の医師人生に関わるところですからね。
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【医師の偏在】診療科の偏在〜現在の対策「地域枠の指定診療科枠」とは?

前回の記事で「地域の偏在」対策として挙げた「地域枠制度」。

一般的な地域枠制度には診療科の指定はありませんが、あらかじめ診療科を指定した「指定診療科枠」というものを設けている医学部も存在します。

一例を出しますと、横浜市立大学医学部医学科には、下記の3つの募集枠が用意されています。

<横浜市立大学医学部医学科の3つの募集枠>

  1. 一般枠(普通の医学生):地域指定なし、診療科指定なし
  2. 地域枠(一般的な地域枠):地域指定あり、診療科指定なし
  3. 神奈川県指定診療科枠:地域指定あり、診療科指定あり

ちなみに、神奈川県指定診療科枠の指定診療科とは、神奈川県内で特に不足している8診療科(産科、小児科、麻酔科、外科、内科、救急科、総合診療科、脳神経外科)のこと。

医学部入学時点で、「卒業後は神奈川県で産科として働きます」「卒業後は神奈川県で小児科として働きます」と契約しなければならないのです。

これは神奈川県としてはかなりの安心材料になります。

でも、医学部入学時〜卒業時〜初期臨床研修修了時で、希望の診療科が変わる人多いよね。まだ医学も学んでいない段階で決めちゃって大丈夫なのかなあ。
更紗
「医学部受験が辛いから、どんな枠でもいいから入りたい」と申し込んで、その後離脱してしまう医学生もいると思うんですよね。医学部入学後の働きかけが重要になってきますね。
医学部医学科・医学研究科医科学専攻

【医師の偏在】診療科の偏在〜新たな対策「強力な働き方改革」

医師不足にあえいでいる診療科の権威ある人が、未だに「医師の使命感・誇りを伝える」程度の対策しか考えられないのだとしたら甘すぎます。

医師不足の診療科は、共通して労働条件が悪いというマイナスポイントがあることを、まず認識するべきです。

ならば当然、他の科を圧倒するほど労働条件を改善しなければならない。

今こそ強力な働き方改革を遂行するべきです。

もちろん、国レベルでの医療機関の再編・集約化も必要不可欠ですし、

先の対策等で診療科の医師数を増やしていくとして、その医師が育つまでまだまだ時間とお金がかかります。

けれども、各医療機関主導で下記のような労働環境を整えることは、比較的早期にできるのではないでしょうか。

<望まれる労働環境の一例>

  • 報酬を高くする
  • 常勤医は定時帰宅を死守する
  • 当直・休日日直はバイト医に任せる
  • 主治医制ではなくチーム制
  • 業務のマニュアル化(PHSでの相談を減らす)
  • タスクシフト、タスクシェアリング(他の医療職に任せる・分業してもらう)
  • 手術など時間がかかる業務は複数医師で回す

今この時も、医師不足の診療科でふんばっている臨床医の皆さんがたくさんいます。

その人たちを失わないためにも、どうか、各医療機関には強力な働き方改革の徹底をお願いいたします。

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【医師の偏在】診療科の偏在〜新提案「敢えてAIに仕事を淘汰される」

皆さん、「医師の仕事はAIに取って代わられる」と言われたら、どう感じますか?

またまた〜、SF映画の見すぎなんじゃない?
更紗
いや、それが…ある書籍で「いくらか腕の良い医師がいたとしても、医師全員をコンピューターに取って代わらせる方がいい」と判断される可能性が示唆されているんですよ。
その書籍というのが、こちら。
『サピエンス全史』で有名なユヴァル・ノア・ハラリ氏の著書です。

『21 Lessonsー21世紀の人類のための21の思考』(著:ユヴァル・ノア・ハラリ、訳:柴田裕之、発行:河出書房新社)

ここでは、医師の仕事がAIに取って代わられ、医師が大量に失業する時代がやってくることが書かれています。

特に淘汰される可能性が高いとされている医師の仕事は、下記の通り。

<AIに淘汰される可能性が高い医師の仕事>

  • 手術も手技も少ない診療科
  • 一般開業医

どうでしょう…人気の診療科である精神科や、「何でも診れる」と重宝されてきた一般開業医が、仕事を失う未来がすぐそこに迫ってきているのです。

私は医師という職業が消失するとは思いませんが、大半の業務内容やいくつかの診療科は消失すると考えています。

「それにより余った医師が、医師不足の診療科に流れる」構図を作り出せるのだとしたら、

現在の「診療科の偏在」は、私たちが思っているよりも早期に解消するのかもしれません。

「AIに仕事を淘汰される」ということをネガティブに捉える方も多いと思いますが、

ここは敢えて淘汰されるのが解決策になるのではないか、という提案をさせていただきました。

↓ 『21 lessons』の内容は当ブログの過去記事でも解説しています ↓

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まとめ AIは医師の「診療科の偏在」対策になるか

「診療科の偏在」対策の現状、国の対策、AIの活用について見てきました。

明るい未来が見えない医師の「診療科の偏在」…この状況を打破できるのが、もしかしたらAI技術なのかもしれません。

多くの診断・検査・治療がAIの判断で自動で行われるようになったとしたら、世界中で手術・手技がない診療科は淘汰されるということが起こり得ます。

その後も残る医師の仕事は、手術・手技がある診療科に集約されることになるでしょう。

となると、現在医師不足に苦しんでいる外科にも再び人が流れてくる可能性が高いです。

しかしその時には当然、外科医の働き方改革が徹底されていることが前提です。

医療現場でAIを活用するためにはシステム構築・法整備などが必要で、体制が整うのはまだ先の話かもしれませんが、

国には、AIの導入に遅れを取らないようにお願いしたいものですね。

私はAI技術が医師の労働環境を改善し、明るい未来を創造してくれること、大いに期待しています。

では、また!

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