【新専門医制度】問題点のまとめ、全国医師連盟の活動を紹介

  • 2022年1月7日
  • 2022年1月8日
  • 資格

皆さんこんにちは、更紗(さらさ)です。

皆さんの中には、これから専門医資格の取得を目指す方もいらっしゃるかと思います。

そういう方は、新専門医制度に対して、少なからず不安な気持ちを抱いているのではないでしょうか。

というのも、2018年に見切り発車した本制度は、未整備で不確定な要素が多く、未だ混沌としているからです

SNS上でも、以下のような投稿を目にしました。

専門医資格の取得は諦めました。今後フリーランスで生きていきます。

新専門医制度への不信感が強いことが伺えます。

今回の記事では、新専門医制度の問題点や、それに対する全国医師連盟の活動内容を取り上げます。

この記事を読むことで、不安な気持ちでいる臨床医の皆さんに、わずかでも希望を与えられると思います。

是非ご一読ください。

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新専門医制度の概要

これまでは、各学会が独自のプログラムで医師に専門医資格を与えていましたが、専門医の質が一定ではないという問題がありました。

新専門医制度は 「専門医資格の認定基準を統一し、専門医の質を高める」 という目的の元、第三者機関である日本専門医機構によって運用されています。

2018年に初期臨床研修を修了した医師から対象となります。

基本領域(19領域)の研修を3~5年間受けた後、より専門性の高いサブスペシャルティ領域に進む二階建て方式です。

一般社団法人日本専門医機構は、国民および社会に信頼される専門医制度を確立し、専門医の育成・認定およびその生涯教育を通じて…

新専門医制度の問題点

批判の声が大きいのは、以下のような点です。

基幹施設が都市部の大病院や大学病院に偏っている。

そのため、専攻医は都市部で研修を受ける必要があり、地方の医師不足が深刻化することが懸念されています。

また、研修先として大学病院を選んだところ、自分の意思に反して大学医局への入局を強制されたという声もあります。

医局制度の復権に利用されている!!!

そう感じている専攻医も多いのではないでしょうか。

原則、基幹病院と連携病院のローテーションが必要。

専攻医の研修は、基幹病院と連携病院のローテーションが必要で、研修年限が定められた「プログラム制」が原則とされています。

厳密な研修を受ける必要があるため、柔軟性に乏しく、妊娠・出産・留学等で研修の継続が危ぶまれる医師も出てくることでしょう。

地方の医師不足の問題を、連携病院のローテートで補おうとしているのでは・・・。

僻地の病院にローテートしなければならない場合もあり、その間家族と別居しなければならない方もいるでしょう。

小さい子どもがいる家庭では、由々しき問題です。

対して、単位制で、研修年限に制限が無い「カリキュラム制」も設けられており、柔軟な研修を受けることが出来ますが、

こちらは妊娠・出産・留学等の合理的な理由がある場合に限り認められるとのことです。

例えば、男性医師が「子どもが産まれたばかりだから、家族と別居したくない」という理由では、カリキュラム制の選択は認められない可能性が高いと思います。

地域・診療科の採用数制限がある。

新専門医制度では、地域・基本領域毎の専攻医採用数に上限を設ける仕組み(シーリング)が採用されています。

医師の地域・診療科偏在を助長しないためであり、そのことも非常に大事ですが、

志望者数が多い地域・診療科では、自分の希望通りの地域・診療科で研修を受けられない可能性が高くなります。

第一期専門医が誕生した今も、サブスペシャルティ領域が定まらない。

2021年、第一期の専門医(研修年限3年の診療科)が誕生しました。

しかし、その次に進むはずのサブスペシャルティ領域が、未だ定まっていないのです(2022年1月現在)。

ヨミドクター(読売新聞)

サブスペ領域への追加をめぐり  日本専門医機構が認定する専門医(サブスペシャルティー領域)には、どんな分野を含めるのか―…

日本専門医機構が認定済みのサブスペシャルティ領域は以下の24種類ですが、

消化器内科、循環器内科、呼吸器内科、血液内科、内分泌代謝・糖尿病内科、脳神経内科、腎臓内科、膠原病・リウマチ内科、消化器外科、呼吸器外科、心臓血管外科、小児外科、乳腺外科、放射線診断、放射線治療、アレルギー学、感染症、老年病、腫瘍内科、内分泌外科、肝臓内科、消化器内視鏡、内分泌代謝内科、糖尿病内科

日本専門医機構が認定していない(各学会が認定する)サブスペシャルティ領域も同時に存在するため、それらの扱いについて議論のし直しが必要となり、

上記の24領域以外のサブスペシャルティ領域は、2022年度以降のスタートとなるとのことです。

それまでの経験症例は遡ってカウントされるなど、専攻医に不利益が生じないような取り扱いが図られるそうですが・・・。

自分が志望していたサブスペシャルティ領域が、結局日本専門医機構に認められなかったらどうするんだ・・・。

厳しい修了条件のため、内科志望者数が減少している。

日本専門医機構は、2018~2021年度の内科専攻医採用者数を以下のように発表しています。

2018年度 2670名(全体の31.7%)

2019年度 2794名(全体の32.4%)

2020年度 2923名(全体の32.2%)

2021年度 2977名(全体の32.4%)

一般社団法人日本専門医機構は、国民および社会に信頼される専門医制度を確立し、専門医の育成・認定およびその生涯教育を通じて…

ちなみに、2014~2016年度の日本内科学会認定内科医受験者数平均は3224人だったとのことです。

単純比較は出来ませんが、新制度では、旧制度と比べて内科志望者が1~2割減少していることになります。

主な理由は、プログラム修了条件が厳し過ぎることのようです。

研修期間3年の内に、以下を満たさなければなりません。

  1. 症例登録を160症例
  2. 病歴要約を29症例
  3. 学会発表または論文発表を2回+学会参加を年2回(3年で6回)
  4. 講習会参加を年2回(3年で6回)
  5. JMECC受講

症例登録のために、内科系の診療科を転々とローテートする必要があり、

内科専攻医の研修期間は、初期研修の延長と言っても過言ではありません。

早くにサブスペシャルティ領域の経験を積みたい人にとっては苦痛でしかないでしょう。

SNS上でも、以下のような投稿がありました。

内科志望だった初期研修医が、全員マイナー科に進路変更してしまった。

今後の内科専門医の在り方が心配です。

全国医師連盟『専門医制度に関する提言』紹介

これら新専門医制度の問題に対して、2021年11月7日、全国医師連盟が『専門医制度に関する提言』を発表しました。

その一部を抜粋します。

<骨子>

  1. 専門医制度の目的を「医療の質の担保」のみとする。特に、若手医師の技量向上を目的とした専門医制度とすべし。
  2. 専門医制度を、顕在化している医師不足の偽装解決策に流用しない。
  3. 専門医制度は10年先を見通して設計する。バランスの取れた世代・ジェンダー構成による組織の下で、子育て世代のキャリア形成を阻害しないカリキュラムを新たに作成する。
  4. 日本専門医機構は、直近の事務処理作業を処理する職員確保とAi化を目指し、技術系正規職員を大幅に増やすべきである。
  5. 日本専門医機構の業務を「選択と集中」させるため、いわゆる「二階建て制度」を根本から見直す必要がある。

<解説>

(前略)従前の「専門医制度」の頃から指摘されていた様々な問題点が、一向に改善していない。制度を刷新するにも関わらず、旧弊が残り、制度の趣旨を歪曲する取組が目に付く。これでは、若手の意欲も削がれる。

  • 提出書類が煩雑で、臨床以外の部分での負担増。
  • 認証基準を上げたことによるエントリーの断念。
  • 指導医への負担。
  • 指導医の恣意による成果判定。
  • 医師不足や偏在対策として、異動を前提とした制度設計。
  • 結婚・妊娠・出産といったライフイベントを前提としない制度設計。

今後30年以上は少子高齢化がさらに進む日本社会では、女性の社会進出を抜きに現在の医療水準を維持することは不可能である。現に、各医学部とも女性入学者の比率が高まっている。しかし、これは日本特有の現象ではない。他の先進国でも同様である。女性医師のキャリア構築を前提としたカリキュラムは不可欠である。

「新専門医制度」の設計には、日本社会の将来像と親和性が重要である。現状は、その配慮に欠けている。そのためには、専門医制度にも多様な個人のライフプランを可能とするカリキュラムを用意しなければならない。当然、出産や育児を経験していない者だけで多様なカリキュラムを策定することは不可能だろう。(後略)

全国医師連盟『専門医制度の改善を求める意見書』紹介

更に、2021年11月18日、全国医師連盟が『専門医制度の改善を求める意見書』を日本専門医機構に提出しました。

その一部を抜粋します。

  1. 専門医制度の目的を単一化させること。
  2. 10年先の医療需要を満たせる現実的な制度設計をすること。
  3. 「見切り発車の制度運用」「運用開始後の調整・変更」といった専攻医を混乱させる運営を是正し、ガバナンスを強化すること。
  4. 機構にとって不都合な内容も議事録には記載し、公開すること。
  5. 不十分な説明状況の中で、若手医師に費用を課する運営をしないこと。
  6. 理事会を含め総ての合議体は、バランスの取れた世代・ジェンダー構成で運営すること。
  7. 結婚・妊娠・出産・子育て等のライフイベントに、総てのジェンダーが参画することを前提としたキャリア形成が可能なカリキュラムを新たに作成すること。

<①について>

「医療の質の担保」を目的に、一定水準の医師を育成する専門医制度を、各学会から機構を中心に刷新したことは時代の流れと考えます。しかし、専門医制度に「その他の目的」を付与することは、疑義をもちます。(中略)

専門医制度が医師不足や偏在化という問題の解決手段にはなりえません。現に、専門医制度を有する諸外国で、専門医の資格条件として医療過疎地での勤務を課している国はありません。

そして、医師不足や医師の偏在化の解消は、本来は行政が取り組むべき仕事です。機構の本来業務ではありません。そのため、現在の専門医制度には誰もが首をかしげます。(中略)

<②について>

専門医制度の目的は、「医療の質の担保」。すなわち、「医療人の育成」です。臨床現場の医師は、「現行の専門医制度が医療のsustainabilityを揺るがす制度設計ではないか」と懸念しています。その懸念事項を機構が放置しているように見えます。(中略)

<③について>

「専門医制度がどうなっているのか分からない」という声が専攻医から上がりました。新専門医制度発足後の不十分な連絡や、山積みのままの未決定事項。このような疑念を専攻医に持たせている現状は、本来、あってはなりません。危機意識の希薄な機構を我々は危ぶみます。そして、あやふやに運用している現状を機構は早急に改めるべきです。(中略)

<⑦について>

現在の専門医制度は、子供を産まず、育てないことを前提にした構成です。医師の育成においても多様性は必要です。そして、医師も人間であるという視点を持った取組を求めます。出産・育児が、医師のキャリア構築に不利に働かないカリキュラムの作成は必要不可欠です。ワークライフバランスを実現出来ない制度は、育児や介護、技量向上の時間を奪い、少子化や労働力人口の減少をより一層深刻にさせます。

まとめ 全国医師連盟の活動を見て

「よくぞ言ってくれた!」と拍手したい気持ちになった方も多いのではないでしょうか。

このように、組織として声を上げていただけるのは心強いですね。

若手医師が将来に希望を持てないような制度設定は、早急に改めるべきです。

いつか臨床医の皆さんが、明るい未来を思い描けるような制度になってほしいと思います。

しかし、今まさに新専門医制度に振り回されている方々の中には、「もう限界だ!」と感じている人もいることでしょう。

その場合には、敢えて臨床系専門医資格を取得しない非臨床系専門医資格の取得を目指すという道もあります。

将来のことも含めてよく考え、ご自身が心から望む道を選んでくださいね。

皆さんがどのような道を選んだとしても、応援しています!

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