皆さんこんにちは、更紗(さらさ)です。
皆さんは医師という職業を選んだわけですが、現在、その結果に満足していますか?
医師の仕事の過酷さに、誰でも一度はそんな風に思ったことがあるのではないでしょうか。私もその一人です。
そして別の仕事を探そうにも、以下のような悩みが立ちはだかります。
そんな、「キャリア選択」という正解のない悩みに答えを出す方法を具体的に解説してくれるのが、
今回紹介する書籍『科学的な適職』(著者:鈴木 祐、出版:クロスメディア・パブリッシング)です。
適職と聞くと、何となく「本当にやりたいことを諦め、妥協で選んだ仕事」という印象も受けますが、
本書では「あなたの幸福が最大化される仕事=適職」と定義しています。
それを、医師の大好きな科学的根拠(エビデンス)に基づいて考察してくれています。
私はこの本を読んで、自分がした転職の答え合わせが出来ました。
また、今後働き方を変えていく際の道標となる良書だと思いました。
今回の記事は、働き方に悩む皆さんが、エビデンスに基づいて、自分なりの適職をじっくり考察出来るようになることを願って書きました。
是非ご一読ください。
皆さんこんにちは、更紗(さらさ)です。これまで、臨床医がより良い働き方を得るための手段の一つとして転職を勧めてきたこのブログですが、医師転職サイトって沢山あり過ぎて、どれを選べばいいのか分からない…。[…]
なぜ私たちはキャリア選びに失敗するのか
老人に「人生で最も後悔したこと」を尋ねると、キャリア選択への未練の言葉が最も多いそうです。
特に日本の場合は「仕事を第一にしすぎた」や「働きすぎてプライベートをなくした」といった答えが多く、
多忙な臨床医にバッチリ当てはまります(汗)。
このまま働き続けて、老後に後悔しないか心配になった方もいるのではないでしょうか。
就職と転職の失敗は、誰にでも起こり得ます。
そしてそのおよそ7割が、「視野狭窄」によって引き起こされるとのことです。
視野狭窄の定番パターンとして、以下の3つが挙げられています。
- お金に釣られる 収入が増えたのはいいが、前職で培ったコネを失うパターンがよく見られる。
- 「逃げ」で職を決める 「将来のために」ではなく逃避で職を転々とするケース。最終的に収入も下がることが多くなる。
- 自信がありすぎる、またはなさすぎる 「私はどのような会社でもやっていける」「今の会社には問題がある」と、自分の方に問題がある可能性や現状のありがたみに思いが行かないケース。または「あんな会社は自分に向かない」と、より良い可能性から自らを遠ざけるケース。
もうひとつの問題が、人類の脳に備わった「バグ」の存在です。
これは、私たちの意思決定を間違った方向に誘導するものだそうです。全ての人間が生まれ持ち、かなり強力です。
例として以下の3つが挙げられています。
- 利用可能性ヒューリスティック ひとつの転職エージェントや友人の紹介だけをもとに転職を決めたら、まったく社風になじめない会社だった。
- 現状維持バイアス 就職した企業が自分に合っていないのに、「転職しても改善するとは限らないし・・・」などと考えてしまい、いつまでもダラダラと居座ってしまう。
- インパクト・バイアス 憧れの会社に入ったまでは良かったが、時間が経つうちに「もっと良い仕事があるのではないか?」と思えてきた。
視野狭窄や脳のバグが、私たちの「適職探し」を阻んでいるのだとしたら、由々しき問題です。
どうすればそれらを解消し、転職を成功させることが出来るのでしょうか。
正しい職業選択のための5ステップ「AWAKE」
本書では、複数のデータから「幸福な仕事選び」に役立つ可能性が高いテクニックだけを抜き出し、バラバラだった知見をひとつの大きな流れにまとめ、5つのステップとして体系化しています。
それが「AWAKE」であり、これを使う最大の目的は、以下の2つです。
- 意思決定の精度を上げて正しい仕事を選ぶ
- 正しい仕事を通して人生の幸福度を上げる
では、その5つのステップを見ていきましょう。
<AWAKE>
- 幻想から覚める(Access the truth) キャリアアドバイスの真偽を検討する
- 未来を広げる(Widen your future) 人間が本当に幸福を感じる仕事とは何か?
- 悪を取り除く(Avoid evil) 人間を不幸に追いやる職場の条件とは?
- 歪みに気づく(Keep human bias out) 自分の意思決定が間違った方向に進んでいないかを確かめる
- やりがいを再構築する(Engage in your work) 仕事にやりがいを持つにはどうすればいいのか?
【ステップ1:幻想から覚める】職業選択にありがちな7つの大罪
ステップ1では、世の中にはびこる様々なキャリアアドバイス(以下)の真偽を検討していきます。
<職業選択にありがちな7つの大罪>
- 好きを仕事にする 幸福なのは最初だけ。「仕事は仕事」と割り切った群の方が優秀だった。
- 給料の多さで選ぶ 給料アップの幸福度上昇は上限があり、1年間しか続かない。
- 業界や業種で選ぶ 専門家でも有望な業界の予測は不可能。あなたの好みと価値観は変わり続ける。
- 仕事の楽さで選ぶ 適度なストレスは仕事の満足度を高める。
- 性格テストで選ぶ 適職が見つかる保証はどこにもない。
- 直感で選ぶ 論理的に考える人の方が人生の満足度が高く、日常のストレスも低い。
- 適性に合った仕事を求める 事前に私たちのパフォーマンスを予測することは出来ない。
いずれも、正しい職業選択に必要な要素ではないとのことです。これは意外でした。
しかし、本書では上記を完全否定しているわけではなく、特定の要素だけを盲目的に追い求めることに警鐘を鳴らしています。
いずれの要素もほどほどに、複合的に考慮するのが良いと言えるでしょう。
ちなみに私の場合は、「興味の無い臨床医の仕事」から「興味の有る産業医の仕事」に転職したおかげで、
仕事へのモチベーションは以前よりも高く、勉強するのも楽しいです。
もちろん仕事ですから、好きなことばっかりやっていられるわけではないですが、
嫌いを仕事にするよりは、「嫌いじゃないこと」「好きなこと」を仕事にするのが良いのではないか、と個人的には思います。
【ステップ2:未来を広げる】仕事の幸福度を決める7つの徳目
ステップ2では、「人間が本当に幸福を感じる仕事とは何か?」ということを考えていきます。
先述したように、「視野狭窄」は就職と転職の失敗のおよそ7割を占める要因です。
よって、全ては視野を広げることから始まります。
人間には「自分の視野の限界」を「世界の限界」だと思い込む傾向があるため、最高の職を探すためにはこのステップが欠かせません。
ここから取り上げるのは、「あなたの仕事人生を幸せに導くために必要な要素とは何か?」というポイントです。
<仕事の幸福度を決める7つの徳目>
- 自由 その仕事に裁量権はあるか?
- 達成 前に進んでいる感覚は得られるか?
- 焦点 自分のモチベーションタイプ(攻撃型 or 防御型)に合っているか?
- 明確 成すべきことやビジョン、評価軸はハッキリしているか?
- 多様 作業の内容にバリエーションはあるか?
- 仲間 組織内に助けてくれる友人はいるか?
- 貢献 どれだけ世の中の役に立つか?
以上のポイントは「仕事の満足度」について調べた259のメタ分析等で明らかになったもので、欧米はもちろん日本を含むアジア諸国においても重要度が変わらないことが分かっています。
これらの要素を満たさない仕事は、どれだけ子どもの頃から夢に見た職業だろうが、誰からも憧れられる業種だろうが、最終的な幸福度は上がりません。
逆に言えば、これらの要素がそろった仕事であれば、どんなに世間的には評価が低い仕事でも幸せに暮らすことが出来るわけです。
一部の項目について補足していきます。
小さな達成が仕事のモチベーションを大きく左右する、というのはよく言われていることですね。
元メジャーリーガーのイチロー選手の名言にも、以下のようなものがあります。
「少しずつ前に進んでいるという感覚は、人間としてすごく大事。」
「小さなことを積み重ねることでいつの日か信じられないような力を出せるようになっていきます。」
目指すべきゴールがハッキリしており、自分の作業へのフィードバックが即座に得られるような仕事が理想ですね。
また、3つ目の徳目に出てくる「モチベーションタイプ」とはどういったものなのでしょう。
ステップ1で否定されていた性格テストですが、適職を探すのに役立つ唯一の性格テストとされるのが「制御焦点」というものです。
これは人間のパーソナリティを「攻撃型」と「防御型」の2タイプに分ける考え方で、主にコロンビア大学などの研究で、仕事のパフォーマンスアップ効果が証明されてきました。
- 攻撃型:目標を達成して得られる「利益」に焦点を当てて働くタイプ。
競争に勝つのが好きで、金や名誉などの外的な報酬に強い影響を受ける。常に大きな夢を持っており、仕事を効率的に進める意思が強い。基本的にポジティブだが、その分だけ物事を突き詰めて考えず、準備不足のまま事を進めようとするのが難点。作業が上手くいかないと、すぐに気落ちする傾向もある。
→コンサルタント、アーティスト、テクノロジー系、ソーシャルメディア系、コピーライターなど - 防御型:目標を「責任」の一種として捉え、競争に負けないために働くタイプ。
自分の義務を果たすのが最終的なゴールで、出来るだけ安全な場所に身を置こうとする。失敗を恐れる傾向が強いため、仕事ぶりは正確で注意深く、ゆっくりと着実に物事を進めていく。最悪の事態を想定して動く傾向が強く、時間の余裕がない状況ではストレスが激増する。分析や問題解決能力が高い。
→事務員、技術者、経理係、データアナリスト、弁護士など
皆さんは、自分がどちらに該当するか判断出来ましたか?
ここで、実際に手を動かして、自分の適職を探していくことになります。
要するに上記7つの徳目に該当しそうな職業を思いつく限り書き出すのです。
(本書では専門的な技法を用いていますが、非常にボリュームが大きいので詳細は割愛させていただきます。)
あらゆる可能性のリストアップを心掛け、未来を広げることに努めてください。
ちなみに私の場合は、偶然ですが、今の専属産業医という仕事は7つの徳目の全てを満たしていると感じます。だから転職の満足度が高いのですね。
しかし、当然ですが、「7つの徳目を満たした仕事に就いたら、もう安心」とはいきません・・・。
次のステップを見ていきましょう。
【ステップ3:悪を取り除く】最悪の職場に共通する8つの悪
ステップ3では、「人間を不幸に追いやる職場の条件とは?」ということを考えていきます。
ネガティブな経験はポジティブな経験よりも心に残りやすく、頭から取り除くのが困難になってしまうという事実があります。
適職探しにおいても例外ではなく、働く環境にひとつでもマイナスの要素があれば、「7つの徳目」がもたらすメリットが無になりかねないのです。
よって、以下のように「私たちに悪影響をおよぼす職場の特徴」は極力排除するべきです。
<最悪の職場に共通する8つの悪> ダメージが大きい順
- ワークライフバランス崩壊 仕事がプライベートを侵食するなど
- 雇用が不安定
- 労働時間が長い
- シフトワーク
- 仕事の裁量権がない
- 周囲からのサポートがない
- 組織内に不公平が多い
- 通勤時間が長い
要するに、「時間の乱れ」と「職務の乱れ」が悪なんですね。
私の臨床医時代の不満は、ほぼここに網羅されています・・・。
現在は専属産業医ですが、会社員としての福利厚生が整っており・裁量権が大きく・周囲のサポートがあります。非常に働きやすいと感じています。
ところで世の中では、新型コロナウイルス感染症で在宅勤務をする人が増えましたね。
通勤時間が無くなり、勤務時間内の過ごし方の裁量が大きくなったのは良い点ですが、
「やろうと思えばいつでも・どこでも仕事が出来てしまう」ことが逆にワークライフバランスを崩壊させたり、労働時間が長くなったりといった弊害を生んでいます。
上記8項目全てを排除するのは、結構難しいことなのですね。
【ステップ4:歪みに気づく】バイアスを取り除くための4大技法
ステップ4では、自分の意思決定が間違った方向に進んでいないかを確かめていきます。
つまり、先述した脳のバグ(バイアス)を取り除く方法について紹介されています。
正しい意思決定を行うためには、綿密なデータ分析よりも脳のバグ(バイアス)を取り除くプロトコルの方が600%も重要であるとのことです。
是非、そのプロトコルをマスターしたいですね。
そのプロトコルとは、以下の2種類に分かれています。
- 時間操作系 出来るだけ将来をハッキリと思い描き、近視眼的な判断をリセットする手法。
- 視点操作系 視点をコントロールしてバイアスを乗り越える手法。
(ハンター×ハンター?)
時間操作系としては、以下の技法が紹介されています。
- 10/10/10テスト この選択をしたら10分後・10か月後・10年後にはどう感じるだろう?
- プレモータム 失敗を前提にして意思決定をする。
視点操作系としては、以下の技法が紹介されています。
- イリイスト転職ノート 自分の行動を三人称で記録する。
- 友人に頼る 友人に訊く。第三者の方がバイアスに囚われにくい。
いずれも、すぐに実践出来るものですね。
これらを駆使して、自分の脳のバグを取り除いていきましょう。
【ステップ5:やりがいを再構築する】仕事の満足度を高める7つの計画
ステップ5では、「仕事にやりがいを持つにはどうすればいいのか?」ということを考えていきます。
これまでの手順を踏むと、あなたの意思決定の精度は確実に上がります。その上で自分にとって適職だと思える職業に転職したとします。
が、それでも、「これで正解だったのか分からない」ということは起こり得ます。
明らかなブラック職場であれば、再度転職すればいいだけの話ですが、
「今の職場に大きな不満はないけど、このままでいいのだろうか・・・」とモヤモヤしている場合、どうすればいいのでしょうか。
ここで紹介されているのがジョブクラフティングです。
これは、退屈で無意味にしか思えないような仕事に、改めて深い意味を見出す手法です。
この手法が「仕事のやりがい」を大きく高めるとのことです。
転職しなくてもやりがいが高まるのですから、まずはジョブクラフティングに取り組んで損はないですね。
しかし、このジョブクラフティングの手法もまた死ぬほど大ボリュームなので、詳細はここには書きません・・・。
要するに、「現在の職場をいかに良くするか?」「いかに今の仕事にやりがいを見出すか?」という風に、
自分が組織や世間に対してどのような役割を果たせるのかを考え、そのニーズを満たすアクションを考えてみる、ということです。
しかし、ジョブクラフティングにも注意点があります。
<注意点1:情熱と目的意識を増やし過ぎない>
燃え尽き症候群は誰にでも起こり得る現象だが、中でも発生率が高いのは、目的意識を持って仕事にのめり込んでいる人である。
3715人のビジネスマンを対象にした研究では、医師は仕事を始めたばかりの時点では幸福度が高いものの、職歴が長引くうちにストレスが激増し、怒りや不安などの感情が増す傾向があった。
<注意点2:やりがい搾取に気を付ける>
普段から意識して仕事のやりがいを高めようと努力している人の一部には、同僚よりも賃金が低く、余分な仕事を押し付けられやすい傾向がみられやすい。
例えば、ブラック職場で働く臨床医は、本来ならばさっさと転職した方が良いのですが、
ジョブクラフティングで「情熱」を見出し、その職場に留まり続け、結果的に燃え尽き症候群に陥ってしまう。
仕事が出来て人当たりが良い医師ほど仕事を頼まれやすく、
ジョブクラフティングで「やりがい」を見出し、その職場に留まり続け、結果的に体調を崩してしまう。
医師にはよくあることなので、尚更注意しなければなりませんね。
ここでやりがいについて、私の思うことを少し書きます。
私は臨床医の知人から、「産業医なんて楽で、やりがいがない」と言われたことがありますが、
「労働条件が悪い=やりがいがある」「労働条件が良い=やりがいがない」ではないですよね。
やりがいというのは、そういう単純なものではないと思います。
その仕事への興味、自分の能力との適性、社会への貢献度、仲間からの信頼等々・・・多数の要素があり、当人にしか分からないものではないでしょうか。
臨床医の仕事にやりがいがある、というのは分かりますし、臨床医の先生たちを尊敬しています。
しかし少なくとも私は、臨床医の時よりも専属産業医になってからの方が、やりがいを感じて仕事しています。
「適職探し」に失敗したら
「AWAKE」をこなせば人生の成功率は高まるものの、結局「適職探し」に絶対の正解はありません。
もし、失敗と挫折の瞬間が訪れたら、
「キャリア・ドリフト」の考え方が役に立つとのことです。
- 人生は予測不可能なイベントの連続であり、事前の計画通りに進むことは少ない。
- そのため、自分のキャリアについては、事前に細かく決めておくよりも大きな方向性だけを定めた方が良い。
- いったん方向性を決めたら、あとは人生に起きた偶然や予期せぬ出来事に柔軟に対応しながらキャリアを積めばいい。
話をまとめると、人生のドリフトとは次のようなプロセスになります。
人生の節目(就職・結婚・病気・出産など)がきたら「AWAKE」のステップを使い、意思決定を行う。
↓
それ以外のタイミングでは、ただ流れに身を任せて日々のタスクに集中する。
正に「人事を尽くして天命を待つ」ということですね!是非参考にしてみてください。
まとめ
本書には、以下のような文言があります。
「これら研究結果を現実に活かすには、あなたの価値観やライフスタイルを組み込んだ、自分だけの『適職の選び方』を編み出す必要があります。」
本書は「この仕事が良い!悪い!」と決めつけるものではなく、
あくまで、あなたが自分だけの適職を選ぶためのサポートツールであるのです。
適職に巡り合うためには、自分自身が行動する以外、道はありません。
働き方に悩んでいる方は、是非今日から、一歩前に進んでください。
皆さんにより良い仕事が見つかりますように、祈っています。
<拙著『医師転職のススメ』シリーズのご紹介>
当ブログの集大成となる「医師転職」に特化した内容で、前後編の2部作です。
『医師転職のススメ〜「転職したくなる!」前編』(著:更紗)
- 臨床医の過酷な労働環境
- あまり機能していない、臨床医を守る手段 など
『医師転職のススメ〜「転職を成功させる!」後編』(著:更紗)
- 転職を学問として学ぶ
- 医師転職の具体的な手順 など
- Kindle Unlimited 加入者は無料で購読可能
- ブログの内容そのままではなく、「原因自分論」や「タイムバケット」といった、より良い人生に必要な考え方を加筆
- 体系的にブログのまとめを読むことが出来る
ブログ記事も増えてきたので、「ブログだと、どの記事を見ればいいか分かりにくい…」という方もいると思います。そんな方にこそ電子書籍はオススメです!
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